最初に知っておくべきインドの歴史の壮大な始まりと古代文明の輝き
インドの歴史を理解する第一歩として、まずはその壮大な始まりである古代文明に触れてみましょう。
数千年前に栄えた都市文明は、驚くほど高度な技術と文化を持っていました。
この章では、インドの歴史の礎となったインダス文明の姿を具体的に見ていきます。
コラム：インダス文明の謎
インダス文明で使われていた「インダス文字」は、現代でも未解読の文字として知られています。
約400種類の文字が印章などに刻まれていますが、その意味や言語の系統は今も多くの研究者の挑戦を待っています。
もし解読されれば、インダス文明の社会や信仰について、さらに詳しいことがわかるかもしれません。
インドの歴史の夜明けを告げるインダス文明の謎多き都市計画とは
インドの歴史の最も古い章の一つは、紀元前2600年頃から紀元前1900年頃にかけてインダス川流域に栄えたインダス文明です。
この文明は、モヘンジョダロやハラッパーといった計画的に建設された都市で知られています。
驚くべきことに、これらの都市には、碁盤の目のような整然とした街路、焼成レンガ造りの家々、大規模な公衆浴場、そして非常に高度な下水道設備まで備わっていました。
例えば、モヘンジョダロでは、各家には井戸や汚水排出のための土管があり、それらが地下の下水道につながっていたのです。
これらの遺跡からは、当時の人々が高い生活水準を享受し、優れた測量技術や都市計画の知識を持っていたことがうかがえます。
しかし、インダス文明がどのような文字を使っていたのか（インダス文字は未解読です）、どのような政治体制で誰が統治していたのか、そしてなぜ紀元前1900年頃に忽然と衰退・消滅してしまったのかについては、未だ多くの謎に包まれており、インドの歴史の中でも特に神秘的な時代と言えるでしょう。
気候変動による乾燥化や、河川の流路変更、あるいは外部からの侵入など、様々な説が提唱されていますが、決定的な理由はわかっていません。
インダス文明が後世のインドの歴史に遺した知られざる影響力とは何か
インダス文明は忽然と姿を消したわけではなく、その文化や技術の一部は後のインドの歴史に影響を与えたと考えられています。
例えば、インダス文明で見られる動物や樹木が刻まれた印章のデザイン、特にコブウシや菩提樹への崇拝、そして沐浴の習慣などは、後のヒンドゥー教の原型とも言える要素を含んでいると指摘する研究者もいます。
また、農耕（小麦、大麦、綿花の栽培など）や家畜飼育の技術、メソポタミア文明などとの広範囲な交易ネットワーク（紅玉髄やラピスラズリなどの交易品が見つかっています）も、その後のインド社会の基盤形成に貢献した可能性があります。
インドの歴史を深く理解するためには、この古代文明が遺した静かなる遺産にも目を向けることが重要です。
インドの歴史におけるアーリヤ人の到来とヴェーダ文化の形成過程
インダス文明が衰退した後、紀元前1500年頃から中央アジア方面よりアーリヤ人と称される言語系統の人々が、数波にわたりインド北西部のパンジャーブ地方に移住してきたと言われています。
彼らは鉄製の武器や農具を使用し、馬に引かせた戦車（チャリオット）を駆る戦闘的な遊牧民でした。
アーリヤ人は、インドの先住民（ドラヴィダ系とも言われる）を征服あるいは同化しながら次第にガンジス川流域へと東進し、農耕を主とする定住生活へと移行しながら新たな社会と文化を築き上げました。
この過程で、紀元前1500年から紀元前500年頃にかけて生み出されたのが「ヴェーダ」と呼ばれる一連の聖典群です。
ヴェーダとは「知識」を意味するサンスクリット語で、自然現象を神格化した神々への賛歌、祭儀の方法、宇宙の根本原理に関する哲学的な思索などが、美しい韻文で記されています。
最も古い『リグ・ヴェーダ』に始まり、『サーマ・ヴェーダ』、『ヤジュル・ヴェーダ』、『アタルヴァ・ヴェーダ』の四つのヴェーダが編纂されました。
これらのヴェーダを根本聖典とする宗教がバラモン教であり、祭司階級であるバラモンが神聖な儀式を司ることで社会の頂点に立ちました。
このヴェーダ文化とバラモン教は、後のインドの歴史におけるカースト制度（ヴァルナ制）や輪廻転生、解脱といった思想の源流となり、現代に至るまでインド社会の根幹に大きな影響を与え続けています。
古代インドの歴史を彩った英雄たちと仏教ジャイナ教の誕生秘話
この章の導入文アーリヤ人の定住が進み、ガンジス川中流域にマガダ国やコーサラ国といった十六大国と呼ばれる小国家が分立抗争する時代を経て、インドの歴史は新たな局面を迎えます。
この紀元前6世紀頃は、都市の発展と商業の活発化、そして従来のバラモン教の権威に対する疑問から、自由な思想家たちが現れ、新しい宗教や哲学が花開いた「都市国家の時代」あるいは「思想の変革期」でした。
この章では、そうした革新的な宗教が生まれた背景と、古代インドの歴史を動かした英雄的な人物に焦点を当てます。
コラム：十六大国とは？
紀元前6世紀頃の北インドには、ガンジス川流域を中心に16の主要な国々が興亡を繰り返していました。
これらを総称して「十六大国」と呼びます。
その中でも特に強大だったのが、後のマウリヤ朝の母体となるマガダ国や、釈迦の出身地に近いコーサラ国などです。
これらの国々は、鉄器の普及による農業生産力の向上と商業の発展を背景に、都市を形成し、互いに覇権を争いました。
この時代の社会変動と精神的苦悩が、新しい宗教や思想を生み出す土壌となったのです。
インドの歴史の中で生まれた仏教の開祖ガウタマシッダールタの生涯と思想
紀元前6世紀頃、インドの北東部、現在のネパール南部に位置した釈迦族の王子として生まれたのが、ガウタマ・シッダールタ（ゴータマ・シッダッタ、後の釈迦牟尼、ブッダ）です。
彼は、何不自由ない王宮での生活を送っていましたが、ある時、城外で老人、病人、死人、そして出家修行者に出会い、人間存在の根源的な苦しみ（生老病死）を目の当たりにし、深い衝撃を受けました。
29歳の時、これらの苦しみから解放される道（解脱）を求めて、妻子や王位継承権を捨てて出家しました。
その後、6年間にわたる厳しい苦行を重ねましたが、苦行だけでは悟りを得られないと悟り、苦行を捨てて菩提樹の下で瞑想に入り、ついに35歳で宇宙の真理を悟り、「目覚めた人（ブッダ）」となりました。
釈迦の教えの中心は、「四諦八正道」に集約されます。
四諦とは、苦諦（人生は苦であるという真理）、集諦（苦の原因は煩悩であるという真理）、滅諦（煩悩を滅すれば苦も滅するという真理）、道諦（苦を滅するための道は八正道であるという真理）です。
そして、八正道とは、正しい見解、正しい思考、正しい言葉、正しい行い、正しい生活、正しい努力、正しい注意力、正しい精神統一という8つの実践徳目です。
釈迦の教えは、身分や階級に関わらず、誰もが自らの努力によって悟りを開き、苦しみから解放されるというものであり、バラモン教の祭祀万能主義やカースト制度を批判したため、特にクシャトリヤ（武士階級）やヴァイシャ（庶民階級）の人々から多くの支持を得ました。
彼の教えは弟子たちによってインド各地に広められ、後にアジア全域へと伝播し、インドの歴史のみならず、世界の文化や思想に計り知れない影響を与えました。
インドの歴史におけるもう一つの革新的宗教ジャイナ教とその教え
仏教とほぼ同時期に、同じくインドの地で生まれたもう一つの重要な宗教がジャイナ教です。
開祖はヴァルダマーナとされ、彼は「ジナ（勝利者）」あるいは「マハーヴィーラ（偉大な勇者）」と尊称されました。
マハーヴィーラも釈迦と同様にクシャトリヤ階級の出身で、30歳で出家し、12年間の苦行の末に悟りを開いたとされています。
ジャイナ教の教えの最大の特徴は、徹底した不殺生（アヒンサー）と無所有、そして厳しい苦行による解脱です。
生命あるものを極力傷つけないことを最重要視するため、信者は農耕（土を掘り起こす際に微生物を殺してしまう可能性があるため）を避け、商業に従事することが多かったと言われています。
そのため、インドの歴史においては商人階級に多くの信者を得て、経済的な影響力も持ちました。
また、ジャイナ教徒は、嘘をつかないこと（サティア）、盗まないこと（アステーヤ）、不淫（ブラフマチャリヤ）、不所有（アパリグラハ）という五つの大誓戒を守ることが求められます。
特に不殺生の戒律は厳格で、微細な生物を殺さないように、口に布を当てたり、道を歩く際に箒で掃き清めたりする修行者もいます。
仏教ほど広範囲には伝播しませんでしたが、インド国内では今日まで篤く信仰され続けている宗教の一つであり、その非暴力の思想はマハトマ・ガンディーにも影響を与えたと言われています。
インドの歴史を統一へと導いたマウリヤ朝とアショーカ王の非凡な治世
紀元前4世紀後半、アレクサンドロス大王のインド侵攻（紀元前327年～紀元前325年）による西北インドの混乱に乗じて、マガダ国からチャンドラグプタが台頭し、ナンダ朝を倒してインドの歴史上初めての本格的な統一帝国であるマウリヤ朝（紀元前317年頃～紀元前180年頃）を建国しました。
彼は、ギリシャ人勢力を駆逐し、強大な軍事力をもって北インドの大部分を統一しました。
その孫にあたる第3代のアショーカ王（在位：紀元前268年頃～紀元前232年頃）の時代に、マウリヤ朝は最盛期を迎えます。
アショーカ王は即位後、領土拡大のために南東インドのカリンガ国（現在のオリッサ州周辺）との間に激しい戦争を行いました。
この戦争はマウリヤ朝の勝利に終わりましたが、数十万人の死傷者と捕虜を出すというあまりにも悲惨な結果を目の当たりにしたアショーカ王は、深く悔い、武力による征服を放棄し、仏教に帰依しました。
その後、アショーカ王は「征服」ではなく、「法（ダルマ）による統治」を理想とし、人道的で倫理的な政治を目指しました。
具体的には、以下のような政策を行いました。
- 仏教教団への手厚い保護と仏塔（ストゥーパ）の建設。
- 道路網の整備、井戸の掘削、無料の施療院や薬草園の設置といった社会福祉政策の推進。
- 動物の殺生を制限し、人道的な扱いを奨励。
- 法（ダルマ）の役人を各地に派遣し、民衆の教化と福祉の向上に努める。
- スリランカや東南アジア、さらにはギリシャ世界にまで仏教伝道団を派遣し、仏教の国際的な普及に貢献。
アショーカ王は、自身の詔勅を刻んだ石柱碑や磨崖碑をインド各地に建立させました。
これらの碑文は、当時のインドの歴史や社会、アショーカ王の思想を知る上で非常に貴重な一次資料となっています。
ライオンの柱頭（現在はインドの国章となっている）などが有名です。
彼の治世は、インドの歴史における理想的な王の姿として後世に大きな影響を与えました。
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多様な文化が花開いた中世インドの歴史とイスラム勢力の台頭
マウリヤ朝の後、インドは再び分裂と統一を繰り返しながら、多様な文化が花開く時代を迎えます。
また、西からは新たな勢力であるイスラム教徒が進出し、インドの歴史に大きな転換期をもたらしました。
この章では、中世インドの歴史のダイナミズムと、文化の融合について見ていきましょう。
コラム：シルクロードとインド
中世のインドは、東西交易路であるシルクロードの重要な中継地点でもありました。
インド産の香辛料、綿織物、宝石などが西方へ運ばれ、西方からは金や銀、ガラス製品などがもたらされました。
この交易は、インドに経済的な繁栄をもたらすだけでなく、異なる文化や宗教、技術の交流を促進し、インド文化の多様性を豊かにしました。
インドの歴史におけるクシャーナ朝の東西文化融合とガンダーラ美術の隆盛
紀元前後から3世紀頃にかけて、イラン系の遊牧民（月氏の一派とも言われる）が建てたクシャーナ朝が、インド北西部（現在のパキスタン、アフガニスタン、北インドの一部）から中央アジアにかけての広大な地域を支配しました。
クシャーナ朝は、東西交易の要衝に位置していたため、ローマ帝国、パルティア（イラン）、漢（中国）などと活発な交易を行い、国際的な文化都市として栄えました。
特に有名なのが、仏教とギリシャ・ローマのヘレニズム美術が結びついて生まれた「ガンダーラ美術」です。
それまで仏像は、法輪や菩提樹、仏足石といった象徴物で表現されることが多かったのに対し、ガンダーラ地方（現在のパキスタン北西部）では、人間の姿をした仏像が初めて盛んに作られました。
これらの仏像は、ギリシャ彫刻のような写実的な顔立ち、波打つような頭髪、深く彫られた衣文表現などを特徴としています。
ガンダーラ美術は、後の仏教美術に大きな影響を与え、シルクロードを通じて中国、朝鮮半島、そして日本へと伝播し、日本の飛鳥・白鳳時代の仏像にもその影響を見ることができます。
クシャーナ朝の最も有名な王であるカニシカ王は仏教を篤く保護し、第四回仏典結集（仏教経典の編纂会議）を行ったと伝えられています。
インドの歴史におけるヒンドゥー教の確立とグプタ朝の黄金時代とは
4世紀初頭から6世紀中頃にかけて、北インドを中心に栄えたのがグプタ朝です。
この時代は、マウリヤ朝と並び称されるインドの歴史における「黄金時代」あるいは「古典文化の完成期」とされています。
グプタ朝の時代には、サンスクリット語が公用語として洗練され、『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』といった二大叙事詩が現在の形にまとめられ、詩人カーリダーサの『シャクンタラー姫』のような戯曲が生まれるなど、サンスクリット文学が隆盛しました。
また、天文学、数学、医学などの学問も大きく発展しました。
例えば、現代私たちが日常的に使っている「ゼロ（0）の概念」や位取り記数法（十進法）は、この時代のインドで発明され、後にアラビアを経由してヨーロッパに伝わりました。
天文学では、地球が自転することや、日食・月食の原理が理解されていたと言われています。
宗教面では、古代からのバラモン教が、土着の民間信仰や仏教・ジャイナ教などの影響を受けながら、ヴィシュヌ神やシヴァ神といった人格神への信仰を中心とするヒンドゥー教として体系化され、広く民衆に浸透していきました。
アジャンター石窟寺院（グプタ様式の壁画が有名）やエローラ石窟寺院（ヒンドゥー教、仏教、ジャイナ教の石窟が混在）の造営もこの時代に始まり、インド古典文化の頂点を示しています。
イスラム勢力のインド侵入がインドの歴史に与えた長期的影響
7世紀にアラビア半島で興ったイスラム教は、瞬く間に勢力を拡大し、西アジアから北アフリカ、イベリア半島にまで広がりました。
インドへもイスラム勢力は度々侵攻を試み、8世紀初頭には、ウマイヤ朝の将軍ムハンマド・ビン・カーシムがインダス川下流域のシンド地方を征服し、イスラム教徒によるインド支配の端緒を開きました。
本格的なイスラム勢力のインド進出は10世紀末から11世紀にかけてで、アフガニスタンに拠点を置いたトルコ系のガズナ朝（マフムード王が有名）やゴール朝が、北インドに何度も侵入し、略奪やヒンドゥー教寺院の破壊を行いました。
これにより、インドの歴史は新たな局面を迎え、既存のヒンドゥー教寺院の多くがモスクに改築されたり、仏教の中心地であったナーランダー僧院などが破壊され、インドにおける仏教の衰退を決定づけるなど、社会や文化に大きな変化がもたらされました。
しかし、同時にイスラム文化がインドに流入し、建築、美術、音楽、学問など様々な分野でインドの伝統文化と融合し、後のインド＝イスラーム文化と呼ばれる独自の豊かな文化を生み出す基盤ともなりました。
また、イスラム教の「アッラーの前の平等」という教えは、カースト制度に苦しむヒンドゥー教の下層民にとっては魅力的に映り、一部で改宗が進む要因ともなりました。
この時期の出来事が、後のインド社会におけるヒンドゥー教徒とイスラム教徒の関係にも複雑な影響を与え続けることになります。
（以下、全10大見出しの最後まで同様の形式で修正・加筆が必要です。文字数制限のため、ここで一旦区切ります。ご要望に応じて続きを作成いたします。）
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